時安の集落から久留美の集落になると、眼下の川が東から南へ直角に方向をかえる。
その流れがぶつかる場所におかしな立て札がある・「地名・人殺し」
ぶっそうな名が、どうもこの屈折する谷の名らしい。油木には李・スモモとか、ここの久瑠美・クルミ
とか、ロマンチックな地名がみえて、それもあってこの奥まった谷へ走ってきた。道がツヅラに川底へはいる斜面に、大きな民家がすわっていて、午後の梅雨の晴れ間の陽光をいっぱいに受けている。
処刑地は、境界線に設けられる。都市では河原がそおういった場所になったという。いってみれば、だれの土地でもない。そんな場所には、不思議な空間がうまれる。橋の下とか、公園の茂みとが。不法投棄のゴミもそんな空間が引き寄せるのだろう。
が、ここはそんな不思議さ、怪しさがあるようには思えない。カンバンには遥か昔の乱世の出来事のようにあるが、これまで昔に遺骸をおいたというなごりの地名をもち場所は、明るくて、暖かいところだった。古代に古墳をつくる際には、鶏をはなして、啼いた場所にしたという。にわとりも明るい場所で鳴くだろう。
数軒の民家は、これでもかといった斜面にしっかりとした石垣をくんで作られている。自然の力にあらがうようにも見える。そして、その形が自然と対峙して、自然を受け入れているようだ。自然が人を鍛える風情がただよって、凛としてある。